児童婚防止への鍵『グッドダディ・キャンペーン』
児童婚とは、18歳未満での結婚、またはそれに相当する状態を指します。婚姻関係になるいずれかひとりでも18歳未満である場合を児童婚と呼ぶため、男の子も児童婚のケースに含まれますが、女の子が児童婚の対象となるケースが圧倒的に多いのが現状です。
世界では児童婚を経験した女の子と女性が約6億5,000万人いると推定されています。
児童婚に関する諸課題の解決には、実は男性・父親の役割も大きくかかわっていることをご存知でしょうか。
バングラデシュの深刻な児童婚問題
バングラデシュは児童婚の割合が世界で最も高い国の一つで、半数以上にあたる約59%の女性が18歳未満で結婚し、そのうちの3分の1以上は15歳未満で結婚しています。
バングラデシュでは結婚できる年齢は18歳と法律で定められていますが、多くの子どもたちは出生届が出されていないため、法律で子どもたちを守ることが難しいのが現状です。
貧困問題との関係
まだ幼い年齢で結婚することは女の子の身体だけでなく、権利や夢を脅かします。児童婚の原因の多くは古くからの慣習によるものですが、 実は貧困問題も大きく関わっています。
14歳の娘を結婚させようとしていたバングラデシュのある父親はこのように語りました。
「収入が少なく家族を十分に養うことも教育費を出すこともできません。だから娘を経済力のある男性と結婚させることにしました。結婚したら幸せになってほしいです」
娘を早く結婚させる理由として貧困や慣習等があげられますが、父親は基本的には「娘の幸せ」を願っているのです。
児童婚は子どもたちの健康や成長だけではなく、将来の可能性や希望までをも奪う
娘の幸せを願う気持ちは正しいものですが、児童婚は、身体と心の準備ができていない少女に性的な関係を持たせ、エイズや性感染症の危険性を高めます。また、未熟な体で出産する際には母子ともに命の危険にさらされます。
さらに、学齢期において出産したり家事に従事したりすることにより、途中退学を余儀なくされるほか、入学を断念するケースも非常に多くなっています。教育を受けられなくなることで、自分の将来やりたい仕事や安定した仕事に就ける可能性が大幅に減り、貧困が世代間で連鎖するリスクが高まります。友人との交流や社会参加の機会も奪われ、少女は嫁いだ家庭内でもしばしば不利な立場におかれます。
一方、女子の就学率が上がると、保健や栄養の知識を得るため乳幼児死亡率の減少に効果があり、また国内総生産の増加につながるという事実は、国連や世界銀行の調査でも報告されています。女子教育の効果は個人の尊厳を守り、能力や可能性を伸ばすだけでなく、地域社会全体、そして次世代にもつながるものなのです。
父親の役割とグッドネーバーズの『グッドダディ・キャンペーン』
グッドネーバーズ・バングラデシュは、こうした児童婚から子どもたちの権利を守るため、様々な運動を展開してきましたが、児童婚の解決のためには、女性だけでなく、家族の中で主に意思決定を行う父親の理解と行動が不可欠と考えました。
そして子どもの権利を理解し、児童婚防止のために父親らに積極的な役割を果たしてもらうことを目標とした『グッドダディ・キャンペーン』を2016年に開始しました。
この運動に参加する父親は、児童婚が生み出す問題点や影響を理解し、自分の娘が大人になるまで結婚させない事を約束します。両親だけではなく子ども達や教師、地域の人々等、2017年だけでも約2万2000人が同キャンペーンに参加し、40人の児童婚の危機に遭った女の子たちを解放することにつながりました。また、この活動は現地の政府機関やメディアからも注目され、その後全国へと波及し、現在に至っています。
2019年グッドダディキャンペーン実績
- グッドダディ・キャンペーンに参加し、グッドダディとして認定された父親の数: 1,673人
- 児童婚の危機にあった生徒の数: 24人
- 児童婚を防げた件数: 6人
児童婚を免れたブリスティちゃん
ブリスティちゃんは、グッドネーバーズの子どもスポンサーの支援を受けている女の子です。運転手の仕事をするお父さんと主婦のお母さんは、2019年のある日、当時11歳だったブリスティちゃんを結婚させることを決定し、花婿を見つけ、結婚式の日程も決めました。
グッドネーバーズはそのことを学校の先生や子どもの権利委員会のメンバーから聞き、ブリスティちゃんの自宅を訪問しました。そして両親と児童婚の危険性を話し合った結果、18歳まで娘を結婚させない約束を取り付けました。その後も家庭訪問を続け、グッドダディ・キャンペーンに関わり続けてもらうように働きかけています。
ブリスティちゃんは、現在も学校に通っており、試験で良い成績を取りたい、と頑張って勉強しています。
児童婚を終わらせるための早急な対応と、一層の努力を
2020年は新型コロナウイルス感染拡大のため、グッドダディ・キャンペーンに関連したイベントの実施は見送られました。
今、新型コロナウイルス感染拡大による失業、貧困の増加、長期間学校閉鎖が続いている影響で、学業から離れ結婚を余儀なくされるケースが急増しています。ユニセフは、新型コロナウイルス感染拡大による生活環境の変化と経済的な貧困により、児童婚が増加するとの懸念を示しています。レポート※によると、2030年までに世界でおよそ1000万件の児童婚が発生するとされています。
※COVID-19: A threat to progress against child marriage
政府や私たち援助機関等は、児童婚を終わらせるための早急な対応と、一層の努力が求められています。今この瞬間も、夢に描いた人生を歩めず、未来を諦めている子どもたちがたくさんいます。私たちはその事実から目を背けず、現地グッドネーバーズと協力し、コロナ下でも子どもたちを児童婚から守るために活動してまいります。