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ひとり親家庭の生声白書 貧困とは何か

※イメージ写真

皆さんは「貧困」という言葉を聞き、どのような状態を思い浮かべますか。貧困の定義は国や機関等によって様々ですが、一般的な定義のひとつとして用いられる世界銀行の「国際貧困ライン」1にみられるように、経済的側面を基準として貧困度合いを測る方法があります。

一方、貧しさの程度は単純にお金の多寡のみで判断できるものではなく、誰もが人間らしい生活を送るために必要な衣食住や教育などが不足している状態も、貧困とみなされます。たとえば、国連開発計画(UNDP)は、貧困を「教育、仕事、食料、保健医療、飲料水、住居、エネルギーなど最も基本的な物・サービスを手に入れられない状態」2と定義しています。

絶対的貧困と相対的貧困

貧困状態は、大きく「絶対的貧困」と「相対的貧困」の二つの概念に分けられます。
絶対的貧困とは、「ある最低必要条件の基準が満たされていない状態」3を示し、

・食べるものや飲みものがない

・住む家がない

・着る服がない

などといった状態があてはまります。
そして、相対的貧困とは、「ある地域社会の大多数よりも貧しい状態」3を示します。この状態においては、

・食費を切り詰めるために、食事の回数を減らす

・家の電気代や水道代を払うことができない

・場面に応じた服を用意できず、冠婚葬祭に参加できない

・経済的な理由で進学を諦める

などのような状況が起こり得ます。

日本の「見えない貧困」

日本における貧困

先進国とされている日本にも、貧困状態で暮らす人たちが存在しています。厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、日本において15.4%の人が相対的貧困状態にあります4。OECDが公表する各国の貧困率(最新値)によれば、日本の相対的貧困率は先進国の中でも高い値を示しています5

相対的貧困率

相対的貧困状態に置かれている場合、周りの大勢の人ができていることができず、先に述べたような食事を減らす・進学を諦めるなどの状況に陥る可能性があります。しかし、そのような困難な状況が周囲から明確に気づかれないことは珍しくありません。たとえばこの日本で、ごく普通の服を着た家族がスーパーマーケットで買い物をしている姿を見かけ、「あの家族は他よりも貧しい」と思うことはほとんどないでしょう。しかし、実はその家族は家計が苦しく食費を捻出することが難しいために、家では親が自分の食事を抜いているかもしれません。このような「見えない貧困」が、日本に存在している現実があります。

子どもの貧困

「見えない貧困」に苦しむ子どもも少なくありません。厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によると、日本の子どもの11.5%、約9人に1人が相対的貧困状態にあります。内閣府が実施した子どもの貧困に関する調査6では、困窮世帯の子どもは非困窮世帯の子どもよりも野菜・肉や魚を食べる頻度が低く、カップ麺やコンビニ弁当を食べる頻度が高い、学校以外の場所での学習機会が少ない、自己肯定感が低いなどの傾向にあることがわかっています。しかし、子どもがこのような状況に置かれていたとしても、見た目にははっきりとわかりづらいことが多いと考えられます。服を着て、靴を履き、学校に行き、周りの子どもたちと同じように授業や給食の時間を過ごしていれば、たとえその子どもが家ではお腹いっぱい食べられず、空腹に耐えているとしても、周囲から気づかれないことは珍しくありません。

ひとり親家庭の貧困

日本における子どもの貧困について考えるうえで欠かせない観点のひとつが、ひとり親家庭における貧困です。厚生労働省「国民生活基礎調査」(2022年)によれば、ひとり親家庭の貧困率は44.5%と半数近くが相対的貧困の状態です。

厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」によると、日本における母子世帯の数は119.5万世帯、父子世帯は14.9万世帯です。平均年間収入(母または父自身の収入)は母子世帯で272万円、父子世帯では518万円となっています。

(出所)厚生労働省「令和3年度全国ひとり親世帯等調査」

ひとり親家庭に対しては、経済状況等に応じて児童扶養手当、就労支援、子どもの生活・学習支援など、様々なサポートや取り組みがある一方、支援が十分に行き届いていない可能性があり、多くのひとり親家庭が依然として困難な状況に置かれています。内閣府が実施した子どもの生活状況に関する調査7によると、過去1年間に必要とする食料が買えなかった経験について、「よくあった」、「ときどきあった」、「まれにあった」を合わせた割合がふたり親世帯では 8.5%である一方、ひとり親世帯全体では 30.3%に及ぶなど、ひとり親家庭の実生活が相対的に厳しい状態にあることがうかがえます。また、同調査で、進学希望の教育段階が「高校まで」と答えた子どもについて、その理由として「希望する学校や職業があるから」を選択したひとり親世帯の割合はふたり親世帯と比べて低く、他方で、「家にお金がないと思うから」「早く働く必要があるから」と答えたひとり親世帯の割合は比較的高くなっています。

もちろん貧困状態にはないひとり親家庭も多く存在しますが、上述のように、困窮した生活を送る割合がひとり親家庭において比較的高いという現状があります。そして、貧困の苦しみを人知れず抱えながら暮らす子どもたちが、この日本社会に確実に存在しているのです。

貧困の連鎖

ずっとお腹が空いていて勉強に集中できず、学校の成績はいつも下の方
本当は大学に行きたいけれど、家にお金がないから諦める

困窮家庭の子どもたちは、このような状況にさらされるリスクが相対的に高いと考えられます。家庭の事情により十分な教育を受けられないまま大人になり、不利な条件で就職し、低い賃金で働き、厳しい暮らしを送るーー子どもの頃の貧困が、大人になってもなお重くのしかかり、貧困から脱却できない状態が長く続いてしまう怖れがあります。たとえば、東京都の子どもとその保護者を対象に行われた調査にかかる詳細分析結果8によると、15歳時点における暮らし向きが「大変苦しかった」と答えた母親の割合を現在の困窮層と一般層とで比較したところ、困窮層である母親の方が大幅に高いことが明らかになりました。

このような世代を超えた貧困の連鎖は、家庭内にとどまる課題ではありません。困窮した生活に身を置く子どもたちが貧困状態から抜け出せないまま大人になれば、自分自身の能力や可能性を発揮できずに社会から取り残されるリスクが高まります。未来の社会を担う存在である子どもの貧困を看過することは、その子自身の可能性だけでなく、来る社会の安定・成長の損失をも引き起こすと言えます。社会全体にも暗い影を落とす貧困の連鎖を断ち切るため、適切な支援を行うことが不可欠です。

貧困の連鎖

1 国際貧困ラインとは、貧困を定義するためのボーダーラインで、購買力平価に基づき算出されます。購買力平価とは、ある国である価格で買える商品やサービスが他の国ならいくらで買えるかを示す換算レートです。2024年8月現在において、国際貧困ラインは1日1人あたり2.15米ドル(2022年算出)と設定されており、1日あたりこの金額未満で暮らしている場合、「極度の貧困」と定義されます。
2 国連開発計画HPより引用 http://www.undp.or.jp/arborescence/tfop/top.html
3 国際協力機構 (2008)「指標から国を見る ~マクロ経済指標、貧困指標、ガバナンス指標の見方~」より引用 https://openjicareport.jica.go.jp/pdf/11881521.pdf
4 国民生活基礎調査においては、等価可処分所得(世帯の可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得)の中央値の半分に満たない世帯員の割合が相対的貧困率として算出されている。国民生活基礎調査(2022年)における等価可処分所得(1年間)の中央値の半分は 127 万円となっており、その額に満たない場合は相対的貧困状態に該当する。
5 出典:OECD “Poverty rate” https://www.oecd.org/en/data/indicators/poverty-rate.html
6 内閣府「令和元年度 子供の貧困実態調査に関する研究 報告書」
7 内閣府「令和3年 子供の生活状況調査の分析 報告書」
8 首都大学東京 子ども・若者貧困研究センター「「子供の生活実態調査」詳細分析報告書」(2018)
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