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ひとり親家庭の生声白書 貧困に潜む“多重苦” 持病、介護、障がい・・・自助努力だけでは抜け出せない困難

※イメージ写真

ここまで、経済事情や衣食住の状況、社会からの孤立など、様々な側面からグッドごはん利用者の実情を述べてきました。

多くのグッドごはん利用者が厳しい状況に置かれている理由は、その人たちが「ひとり親だから」「収入が少ないから」といった単純なものではありません。貧困を形作る要素は一つひとつ複雑に絡み合い、時には幾重にも折り重なっているのです。

本項目では、グッドごはん利用者が個別に抱える多重の困難や苦しみに焦点を当て、周囲による支援の重要性について示します。

保護者と子どもの困難状況

2023年6月にグッドごはん利用者へ行ったアンケート1で、保護者自身や子どもがどのような困難状況に置かれているかを調査しました。

まず、保護者においては、回答者のおよそ6割が選択肢に挙げられた困難な要素を一つ以上抱えていることがわかりました。また、困難な要素を一つ以上もっている回答者のうち約4割は、自身に該当する困難な要素を複数選択しました。

困難状況の内容として、「実親のサポートが受けられない(他界、遠方等)」「日常生活の悩みやストレスを相談できる相手がいない」の選択率が高く、日々の暮らしにおいて身近な人からのサポートを受けづらい状況が推察されます。回答者からは、「友達に誘われても食事や買い物には行けない。時間もない。交友関係が減り、孤立する。」という声も聞かれました。子育てや家事等、生活を一人で担う毎日の中で周りの人と交流する時間が物理的に削られ、日常的に孤立感や疎外感を深めていくリスクが危惧されます。

保護者自身についての状況

次に、子どもに関する困りごとを質問した結果、7割を超える回答者が何らかの困りごとを抱えていることがわかりました。その内容として、子どもに関する困りごとをもつ回答者のうち7割近くが「勉強・学力」を選択しました。次いで、「こころの不調」「栄養状態」など子どもの健康に関係する困りごとの選択率が比較的高い値を示しています。

子どもに関する困りごと

それぞれが抱える多重苦

同調査の自由記述回答で、各々の困難な事情を示す多くの声が寄せられました。

グッドごはん利用者の声
  • 全てを切り詰めて生活しても完全に赤字なので子供たちには辛い思いをさせる事になり、申し訳ない。働きたくても病気治療の通院があるため受け入れてもらえない。貯蓄を切り崩して生活してきたがもうすぐ底をつく状況です

    • Aさん 40代 養育する子ども4人
    • [ 自身の状況 ]
      持病がある 実親のサポートが受けられない(他界、遠方等)
    • [ 子どもに関する困りごと ]
      勉強・学力 栄養状態 発達障がいをもっている/もっている可能性がある
  • 介助で一日中時間を使い、自分の入浴時間が無く諦める。自分の通院時間が取れず、市販薬購入の外出も介助の代わりがなく諦める。仕事を諦める。引越しを諦める。自分に関する物は全て無駄に思え諦める

    • Bさん 40代 養育する子ども1人
    • [ 自身の状況 ]
      持病がある 精神疾患をもっている/もっている可能性がある 介護・介助が必要な家族(子ども以外)がいる 実親のサポートが受けられない(他界、遠方等) 日常生活の悩みやストレスを相談できる相手がいない
    • [ 子どもに関する困りごと ]
      栄養状態 こころの不調 持病がある 発達障がいをもっている/もっている可能性がある 保護者へ反抗する 不登校 いじめを受けている/受けている可能性がある
  • DVと虐待から避難して上京したが、離婚成立していないからという理由でひとり親家庭としての助成が受けられず困っている。普通の家庭と同じように普通に生活がしたい

    • Cさん 30歳 養育する子ども2人
    • [ 自身の状況 ]
      精神疾患をもっている/もっている可能性がある 実親のサポートが受けられない (他界、遠方等)
    • [ 子どもに関する困りごと ]
      その他
  • 子供に身体障害がある為、学校の送迎など成長してもサポートが必要で、集中して入れる仕事に就けない

    • Dさん 50代 養育する子ども1人
    • [ 自身の状況 ]
      持病がある 実親のサポートが受けられない(他界、遠方等)
    • [ 子どもに関する困りごと ]
      身体に障がいがある 発達障がいをもっている/もっている可能性がある 保護者へ反抗する
  • 病気になり長期的に収入がほぼないのに、子供は多額の学費がかかり食べ盛りで進学も控えていて、それも諦めてもらわないといけないような状況

    • Eさん 40代 養育する子ども1人
    • [ 自身の状況 ]
      持病がある 精神疾患をもっている/もっている可能性がある 実親のサポートが受けられない(他界、遠方等) 日常生活の悩みやストレスを相談できる相手がいない
    • [ 子どもに関する困りごと ]
      勉強・学力 栄養状態 身体の不調 こころの不調
  • 1人で3人子どもを育てながら障がい者(実母)と老人(3人)の介護をしていました。とにかく自分の寝る時間と食べる時間は後回し。食欲不振と睡眠障害が辛かったです。 育児や介護で病院に行く事はあるけれど、自分の時間は取れないため受診すらできませんでした。10年この生活を続けた結果、適応障害と診断されました。時間もない中、人と関わると疲れるので他人と距離を置くようになりました

    • Fさん 30代 養育する子ども3人
    • [ 自身の状況 ]
      精神疾患をもっている/もっている可能性がある 介護・介助が必要な家族(子ども以外)がいる 実親のサポートが受けられない(他界、遠方等) 日常生活の悩みやストレスを相談できる相手がいない
    • [ 子どもに関する困りごと ]
      勉強・学力 栄養状態
  • 自分が病気になって家にあった古い薬で何とか過ごしていたけどそれもなくなって、しかたなく病院に行きました。重病でしたので本当は介護が必要かもしれませんが、だからと言って働かないわけにはいかず、苦しむ為に生きていると思う事もあります

    • Gさん 40代 養育する子ども3人
    • [ 自身の状況 ]
      持病がある 実親のサポートが受けられない(他界、遠方等)
    • [ 子どもに関する困りごと ]
      勉強・学力

自力では抜け出せない貧困

以上のグッドごはん利用者のような状況から、単に「ひとり親であること」が貧困状態へつながっているのではなく、多様に重なり合った困難な要素がその人の暮らしを深く脅かすことが懸念されます。

そのような多重の困難に直面することになった場合、きっと誰もがその状況から一刻も早く抜け出したいと願うのではないでしょうか。しかし、困難な要素は何本も複雑に絡まり合った紐のように、容易には解けません。何とか自分の力で解こうとしても、固く複雑な結び目は全く緩む気配がありません。気の遠くなるような作業に、身体と心が蝕まれていきます。そして、解くことを手伝ってくれる人が周りに誰もいなければ、その紐はいつまでも固く結ばれたままです。

自分の力では解決できないような多岐にわたる困難の中で、一層貧困を深めていく家庭が存在します。そういった家庭の子どもたちが貧困から抜け出せないまま大人になれば、社会から取り残され、あらゆる生きづらさを抱える可能性があります。そのような社会は健康とは言えず、私たちの望む姿ではないはずです。

困難な状況に苦しむすべての子どもたちが貧困から脱却し、未来の社会の担い手となれるよう、周囲から手を差し伸べ支援することが不可欠です。

1「ひとり親家庭の困難状況に関するアンケート」
  • ・実施日程:2023年6月1日~6月10日
  • ・対象者:グッドネーバーズ・ジャパンのフードバンク事業「グッドごはん」の食品受取に申し込んだ首都圏および近畿圏の利用者(首都圏は主に東京・神奈川・埼玉・千葉 / 近畿圏は主に大阪・京都・兵庫・奈良) ※利用者は原則、ひとり親家庭等医療費受給者証保有者に限る(ひとり親家庭等医療費受給者証とは、18歳未満の子どもを養育し、所得が限度額未満かつ生活保護を受けていないひとり親家庭等に交付される医療費助成制度の医療証)
  • ・回答方法:アンケート回答フォームへの入力(オンライン)
  • ・回答者数:2,537名(首都圏1,450名、近畿圏1,087名)
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