「食べること」は、生きる上で必要不可欠な営みです。しかし、生活に困窮する家庭にとって、十分な食事をとることさえ諦めの対象になってしまうことがあります。私たちグッドネーバーズ・ジャパンは、食支援を行う団体として、支援を必要とする家庭が身を置く「食べることを諦める生活」の実態を明らかにしてきました。本項目では、その内容について説明します。
自分の食事を減らすことで食費を切り詰めるグッドごはん利用者は少なくありません。2023年1月に行った、1日の食事回数を問うアンケート調査1において、調査へ回答したグッドごはんを利用する保護者の半数以上が1日2食以下で生活していることがわかりました。
また、同調査で、子どもの食事回数についても回答を得ました。学校給食のある平日における子どもの食事回数(学校給食含む)が1日2食以下の回答者の割合は14.6%である一方、学校給食のない休日にはその割合が約2.5倍増加し、36.9%に達しました。
グッドごはん利用者から当団体のもとに、厳しい食事状況に関する声が絶えず寄せられます(以下、上記調査回答者以外によるコメントを含む)。
夏休みなど、長期で学校が休みになり給食がなくなる期間には、困窮家庭の子どもたちの食生活が一層深刻化します。2024年3月にグッドごはん利用者(学校給食のある子どもをもつ利用者)へ行った、学校の長期休み期間における子どもの食事状況に関する調査2では、学校給食のある期間と比較し、学校給食のない長期休み期間には子どもが1日2食以下の割合が約3倍に増加することがわかりました。
また、長期休み期間中に子どもの食事回数が減る理由として最もあてはまるものを質問したところ、「経済的に余裕がなく、家庭で十分な食事を用意することが難しいため」「時間に余裕がなく、家庭で十分な食事を用意することが難しいため」と回答した人の合計が6割近くに及びました。
自由記述回答では、長期休み期間中の食事の切迫状況に関し、下記のような声が上げられました。
子どもの長期休みに食費がかさむ中、値段の安さを優先せざるを得ず、家庭で栄養バランスの整った食事を用意できずに苦しむグッドごはん利用者も多くみられます。「子どもの長期休み期間中の食生活において、子どもや保護者自身が困った経験や不安に思うこと」についての自由記述回答(回答数:845名)をテキストマイニングにより分析した結果、「栄養バランス」が回答の中で最も頻出する単語として抽出されました。
さらに、子どもの長期休み期間中、学校給食のある期間と比べて食べる量が大幅に減るものを尋ねたところ、「魚」「野菜」が比較的高い割合で選択されました(複数回答)。
長期休み期間中、栄養バランスに配慮した食事を子どもに用意することがなお一層難しくなる状況に関し、自由記述回答で下記のような声が寄せられました。
2021年の後半頃から本書執筆時点の2024年9月現在まで、日本において歴史的とも言われる物価上昇が続き、人々の生活に影響を与えています。収入が低い世帯ほど家計に占める生活必需品への支出割合が高いことを背景に、とりわけ低所得者においては物価上昇による負担が相対的に大きくなることがわかっています3。また、生活必需品の筆頭とも言える食品の値上げは顕著で、グッドごはん利用者はさらに厳しい食事状況に置かれることとなりました。
2022年6月にグッドごはん利用者へ行った調査4では、値上げを実感している回答者の74%が、物価上昇を受けて減らしている出費は「食費」であると答えました(複数回答)。
自由記述で寄せられた「お肉やお魚の回数を減らしていて、子供にまた、お肉ないの!?と言われました」「卵は数ヶ月購入出来ていません」「野菜が高すぎる。もやししか買えない」といったコメントなどから、物価上昇により日々の食生活に変化が生じている様子が見受けられました。
物価上昇の状態は長引き、2024年2月にグッドごはん利用者へ行った調査5では、「最近の物価上昇で、あなたの家計はどのように変化しましたか」という質問に対し、「非常に苦しくなった」と回答した人は6割に及びました。
また、「物価上昇で家計が苦しくなったことが主な理由でとっている(とった)行動」について尋ねたところ、「肉や魚、野菜を控えている」を選択した人が6割を超えたほか、56.1%もの回答者が「自分の食事の量を減らしている」を選択しました。さらには、6.7%が「子どもの食事の量を減らしている」と回答しました(複数回答)。
自由記述回答では、「必要最低限の食料しか買えず子どもには我慢をさせてしまっている。育ち盛りの子どもなのに、栄養が足りているか不安」「収入が減り物価高騰、光熱費の値上げなどですごくしんどい。私は1日1回か2回の食事にして食費を減らしている」など、切迫した状況を示すコメントが寄せられました。
十分な食事をとり、健やかに成長することは、子どもたち一人ひとりがもっている権利であり、貧困によって脅かされてよいものではありません。家庭の状況にかかわらずすべての子どもたちの食の安心が保障されるよう、支援が不可欠です。
「時給は上がらないのに物価が上がり続けていて、子どもに食べさせるために自分のご飯を減らしています」
「収入が上がらないけれど、物価が上がり食べさせる事が困難になっています。私の分を減らして子供にまわすようにしていますが、限界も近いです」
グッドごはん利用者へ2024年2月に行った調査5で、このように、収入が上がらないにもかかわらず物価は上がり、食事に支障が出ているとの声が多く聞かれました(自由記述回答)。
同調査で、2023年における職場での賃上げの状況を質問した結果、「自分の給料は変わらなかった」と回答した人が75%を超えました。
物価高の中で収入は上がらず、実質的に困窮度が増し、必要な食料が買えないほどの困難にさらされるグッドごはん利用者の状況が浮かび上がったのです。