グッドネーバーズ・ジャパンは、日本国内の子どもの貧困対策として2017年より、ひとり親家庭のためのフードバンク「グッドごはん」を開始しました。当団体はこの活動を7年余り行ってきた中で、食品支援がひとり親家庭の身体とこころを支え、希望を届ける一助となる可能性を見出してきました。そのため私たちは、厳しい生活を送る子どもたちの今と未来を守るべく、今後もグッドごはんの活動を継続し、より多くの困窮家庭に寄り添っていくことが必要だと考えています。
「グッドごはん」とは、ひとり親家庭等医療費受給者証をもつ、所得が限度額未満のひとり親家庭を対象に、食品を毎月無料で配付する事業です。2017年9月の事業開始以降、2024年10月現在までにのべ104,325世帯へ食品をお渡ししてきました。
首都圏、近畿および九州に設けた配付拠点において、企業・法人や個人の皆さまのご寄付により集まったお米や調味料、レトルト食品、お菓子など、約10,000円相当(1世帯あたり)のカゴいっぱいの食品をひとり親家庭に配付しています。
※上記は2024年10月時点の情報です
※通常、配付拠点に直接取りに来られる方を対象に食品を配付しています
※生活保護受給中の方は対象外です
グッドごはんを利用するご家庭において、食品を受け取ることによる様々な変化や派生的効果がみられます。
グッドごはんを継続的に利用している人へ行ったアンケート調査1では、回答者の97.7%が、グッドごはんを利用して以降、家庭で何らかの変化を経験していることがわかりました。その内容として、約半数が「家計が改善した」「家族のコミュニケーションが増えた」「食事の量が増えた」を選択しました。
自由記述回答では、以下のような声が寄せられました。
同調査で、グッドごはんを利用する親御さん自身に起きた心身の変化について質問したところ、8割を超える回答者が「利用前と比べて心身の健康状態が改善したと思う(とてもそう思う・ややそう思う)」と答えました。
また、「利用前と比べて将来への見通しや希望が広がったと思う(とてもそう思う・ややそう思う)」と回答した方は63.2%でした。
回答者からは、下記のような声が聞かれました。
同調査で、グッドごはんがお子さんへ与えてきた影響に関しても回答を得ました。
「グッドごはんの食品支援は、お子さんの身体の成長や体調面にどの程度影響を与えてきたと思いますか。」という問いに対し、31.5%が「とても良い影響を与えてきた」、61.4%が「やや良い影響を与えてきた」と答えました。
また、グッドごはんを利用してから子どもの様子や生活などに起きた変化について、以下のような声が寄せられました。
このように、グッドごはんを利用することでポジティブな変化や影響を実感しているひとり親家庭の親御さんや子どもたちがいます。
上記の調査へご回答いただいた利用者のお一人である恵子さん(仮名)は、グッドごはんの支援を受け、息子さんに変化が訪れたことを実感したそうです。
グッドネーバーズ・ジャパンのスタッフが恵子さんへインタビューを行い、その具体的な様子についてお聞きしました。
恵子さんは、元配偶者からのDVが原因で離婚し、ひとり親家庭になりました。
夫から暴力を受けても初めは耐えていた恵子さんですが、次第に息子さんにまで被害が及ぶように・・・。幼い息子さんを連れてシェルターに避難し、息子さんが2歳の時に離婚が成立しました。
その後、恵子さんは身体に障がいのある父親と認知症の症状がある母親のサポートをしながら、派遣の仕事で収入を得て、子育てを頑張ってきました。
就労の手取りは、交通費込みで月16万円程度です。養育費は受け取っておらず、生活は楽ではありません。
1日1食しか食べなかった子どもが・・・
――恵子さんが初めてグッドごはんを利用したのは、新型コロナウイルス禍の時ですね。
恵子さん はい、コロナ禍になって派遣の仕事の収入が減ってしまい、生活に一層不安を抱えていた頃でした。インターネットでフードバンクを探していたら、グッドごはんを見つけたんです。
早速申し込むと、ダンボールいっぱいの食品が自宅に届いて(※)、すごく驚きました。
※グッドごはんでは原則として対面で食品配付を行っていますが、コロナ禍には感染対策のため一時配送にて食品をお届けしました。
――その頃、息子さんはおいくつだったのですか。
恵子さん 中学3年生でした。息子は1日に1食しか食べないこともあったのですが、グッドごはんで食品を頂くようになってから、3食食べてくれるようになったんですよ。
――それは嬉しい変化ですね。
恵子さん グッドごはんは、息子がお料理に目覚めるきっかけにもなりました。食材が家にあって「いっぱい食べてもいいんだ」とわかっていることもあって、家でご飯を作ってくれるようになったんです。息子はパスタが好きで食べることが多いのですが、小麦アレルギーがある私のためには、パスタソースをかけたドリアを作って、「ママはこっちを食べて」と気遣ってくれたりします。
息子は高校生になってから飲食店で調理のアルバイトを始めて、今もずっと続けているんですよ。
「やっぱり一人じゃないんだな」
――恵子さんのためにご飯を作ったりと、お母さん思いの優しい息子さんですね。
恵子さん 以前は反抗期がすごくて、息子から「親ガチャ外れた」って言われたこともあったんです。コロナが始まった頃でした。生活が苦しくて、値段の安いもやしばかりが食卓に上がるようになってしまって。だから、食事が無いってなるとこんなに荒むのかなって。
――つらい思いをされていたのですね。
恵子さん 息子はいじめを受けて学校に行っていなかったこともあって、もういろんなことが八方ふさがりで、イライラしていたと思うんです。コロナ禍もありましたし。
でも、そんな時にグッドごはんの食品が届いて。そこに支援者さんからのメッセージが添えられていて、それを息子が読んでいたんですよね。それで、また何か言われるかな、こんなもん頼るなよとかなんとか言われるかなって思って見ていたんですけど、「ありがたいね」って言ったんですよ、うちの子が。そして、「一人ぼっちだと思ってたのに、ママと二人だけだと思ってたのに、知らない人も助けてくれるんだね。あぁ、やっぱり一人じゃないんだな」って言ったんです。
だから、グッドごはんの支援が本当に、あの子の考えが変わる良いきっかけになりました。「一人ぼっちじゃない」って思うきっかけになったみたいです。それに、親子の会話も増えました。
――そのようなお話が聞けて嬉しく思います。
恵子さん 息子は今高校3年生なのですが、「声優になりたい」という夢があり、卒業後は専門学校に通う予定です。通学のための奨学金を返していく必要があるので、今からバイトをすごく頑張っていて。だから、本当にやりたいんだなぁって。親として、息子の夢を応援していきたいです。
――素敵な夢ですね。お話を聞かせていただき、ありがとうございました。
息子さんからのメッセージ
グッドごはんの支援が、息子さんの変化のきっかけになったと話してくださった恵子さん。
息子さんご本人から、グッドごはんへのメッセージをいただきました。
※恵子さんご家族は、お子さんが18歳を迎えたため2024年3月をもってグッドごはんの支援を卒業しました。
グッドごはんは、ひとり親家庭の食事に対する不安感や経済的負担を軽減することに加え、“誰かに支えられている”という安心を届けることにもつながると当団体は考えています。そして、そのような安心が小さな勇気や希望を生み、困難な状況下で前を向く活力となることを見据え、ひとり親家庭への継続的な支援が必要であると考えます。
初めて食品を受け取りに来たグッドごはん利用者の方が、涙を流す姿を目にすることがあります。その涙には、抱えていた不安の大きさや心細さ、様々な思いが込められているように感じるのと同時に、グッドごはんを通じ、目の前にいるその方へ少しでも安心を届けられたらと強く思います。
グッドごはんでは、利用しやすい環境づくりを目指し、食品配付会場ごとにできる限り固定したスタッフを配置するよう努めています。そのため、毎月の配付のたびにお会いして顔見知りになる利用者の方もいるのですが、明るいお顔でいらっしゃる月もあれば、表情が少し暗く感じられる月もあります。いつも元気に受け取りに来ていた方が、ある時、子どもが学校へ行っていない悩みをお話してくださったこともありました。見た目にはわからなくても、利用者の方それぞれに大変な状況や悩み、苦しさがあると思います。
生きている上で、困難な状況は誰にでも起こり得るものです。だからこそ、必要なサポートを受けることはなにも特別なことではないと私は思っています。そのため、グッドごはん利用者の皆さんが必要な時に「受け取りに行こう」と思えるような、気軽に足を運べるような場所になれるよう、安心できる空間をつくっていけたらと思います。
食品をお渡しするだけでは、すべての困難を取り除くことはできないかもしれません。それでも、応援してくださる方々と共に、グッドごはんを利用する親御さんやお子さんの背中をそっと支える存在になれるよう、これからも精一杯活動していきたいと思います。
グッドごはんの活動は、グッドネーバーズ・ジャパンの力だけでは決して成り立ちません。多くの個人・企業・法人の皆さまからのご寄付やボランティア参加等によるご協力、行政との連携により、活動を実施することができています。
社会は多様なアクターによって構成されているため、貧困などの社会課題を解決するには、たった一つの活動や専門性のみによってではなく、複数の立場の人々や組織が互いの強みを持ち寄り行動することで相乗効果が生まれ、課題の解決に近づくと考えます。支援を必要とする子どもたちへ今後も活動を届けていくため、社会におけるあらゆる立場の皆さまと手を取り合い連携していくことが必要不可欠です。
グッドごはん支援者様からの言葉
「子供たちは、大きな可能性をもっています。子供たちの将来や選択肢を閉ざさないためにも、食は絶対的に、生きていくために必要な行動です。僕の小さな支援の気持ちが、皆さんの成長をちょっとでも助けられていると考えると、僕も嬉しく思います。」――(グッドごはん個人寄付者様)
「私に出来ることは小さいですが、それが沢山集まれば、大きな力になると信じています。 子どもの笑顔は、何より、親が元気をもらえる源です。お子さんの笑顔が絶えませんように。それを見たお父さんお母さんも笑顔になれますように。そんな思いから微力ながらお手伝いさせて頂いています。子ども達の笑顔溢れる日本になってほしい、心からそう思います。」――(グッドごはん個人寄付者様)
「社会貢献かつ運動にもなればと思い2年ほど前に始めた、グッドごはんの食品配付や倉庫作業のボランティア。活動をする中でグッドごはん利用者の方から「生活が安定してきたので、来月から受け取りに来なくてよくなりました。今までありがとうございました。」という声を聞いたり、利用者の子どもたちがグッドごはんのボランティアに参加される等の感動的な場面に遭遇することもありました。」――(グッドごはんボランティア参加者様)
企業様との連携事例
カルビー株式会社様:子どもたちが大好きな商品で、ひとり親家庭に笑顔を
「日本にも十分に食事ができない方がいる中、自社の商品を通じてフードバンク事業に貢献していく必要があると考えており、グッドごはんへ当社商品を寄付しています。お菓子は食べると心が嬉しくなるものだと思います。各ご家庭で、「あの時こんなお菓子食べたね」「みんなで食べて楽しかったね」といった、楽しい思い出がいっぱいできればいいなと思います。
また、当社では社会貢献活動の一環として、「従業員から集めた食品」をグッドネーバーズ・ジャパンに寄付するフードドライブを行っています。フードドライブは、各家庭から商品を持ち寄る活動なので従業員も巻き込んだ活動となり、これまで商品の寄付に携わっていなかった社員にも、社会課題について考えてもらうきっかけになります。」――(カルビー株式会社ご担当者様)
十分な食事をとれずにお腹を空かせている子どもたちが、今この瞬間も数多く存在しています。グッドネーバーズ・ジャパンは今後も食品配付拠点の拡大に努め、一人でも多くの子どもたちの助けになりたいと考えています。さらに、孤立しがちなひとり親家庭が社会とのつながりをより直接的に感じられる環境を創出できるよう、グッドごはん利用家庭のためのイベントの開催といったソフト支援を強化していくことを目指します。
グッドネーバーズ・ジャパンは、企業や教育機関などと連携し、グッドごはん利用家庭の親子に向けたイベントを開催してきました。普段はなかなかできない体験の場を通して、グッドごはん利用家庭に社会とのつながりや、未来の自分に寄り添ってくれるような思い出を届けられるよう活動しています。
~イベントに参加したグッドごはん利用家庭からの声~
「たくさんの人が歓迎してくれて嬉しかった」
「夏休みの一番の思い出になった」
グッドネーバーズ・ジャパンがこのような支援を実施するのは、貧困状態にある子どもたちを守りたいからという理由だけではありません。子どもたちが今過ごす環境が、そのまま未来の社会を形作っていくと考えているためです。貧困に苦しむ子どもたちが適切な支援を受け、健康的に成長し、教育や様々な経験を積むことができれば、将来大人になった時に社会を支える一員としての可能性が広がり、社会全体の成長につながると考えます。
この社会に生きる誰一人として、生涯困難な状況に陥らないという確たる保障はありません。もし将来、自身が厳しい暮らしを強いられることになった時、弱者が守られるような強く優しい社会に身を置きたいと、誰もが望むのではないでしょうか。皆が安心して暮らせる社会を未来へと紡いでいくため、今、来る社会の担い手となる子どもたちの貧困をなくすための支援が不可欠です。
当団体が支援活動を行う中で、グッドごはん利用家庭の子どもたちから「いつか自分も、困っている人を助けられる大人になりたい」というメッセージを受け取ることがあります。
子どもたちが大人になり、困難な状況にある人々を支える姿や、そのような大人たちが助け合って暮らす社会を思い描き、グッドネーバーズ・ジャパンは今後とも支援活動を実施してまいります。そして、今困っている子どもを助ける行動が、未来の社会をより温かく、助け合いに満ちたものに変える力となることを信じています。
私たちは支援実施団体として、困窮する子どもたちの実態や支援の必要性を今後も広く発信してまいります。これにより、同じ社会に生きるより多くの人たちが子どもの貧困問題を自分事として捉え、改善に向けた一歩を踏み出し、子どもたちの今と未来を共に支えてくださることを願っています。
子どもたちの笑顔にあふれた、より良い社会を目指して。
本白書の制作に際して、多くの方々にご協力をいただきました。グッドごはんへの思いや連携活動に関する掲載を快諾してくださった個人・法人の支援者さま、本白書収録のインタビューを通じ、日本の貧困問題等に関する貴重な視点とご意見を賜りました東京都立大学 阿部彩教授に、感謝の意を表します。
そして、本白書にて紹介した種々の調査へ回答をお寄せくださったすべてのグッドごはん利用者の皆さまに、心より感謝申し上げます。
特定非営利活動法人グッドネーバーズ・ジャパン
「ひとり親家庭の生声白書」制作チーム一同