子どもの頃に経験した習い事、自然の中での冒険、家族で行った旅行・・・そのような体験や思い出が、大人になった自分を支えてくれていると感じたことはありませんか?文部科学省の調査1によると、子どもの頃に自然体験や文化的体験等の体験活動を多くしていた子どもほど、その後長い期間を経た時に、高い自尊感情や外向性、精神的な回復力などをもちやすい傾向がみられます。そして、同調査では、収入等の家庭状況により、子どもの体験機会に格差が生じることが示唆されています。グッドネーバーズ・ジャパンが実施したグッドごはん利用者への調査でも、子どもに体験活動をさせることが難しい実情や、子どもたちが周囲との体験の格差に直面し苦しむ声が多く寄せられました。
私たちはグッドごはん利用者に対し、子どもの体験機会に関する調査を2024年6月に実施しました2。まず、ひとり親家庭になって以降、子どもに体験活動をさせる頻度がどのように変化したかを質問した結果、「かなり減った」と回答した人が55.9%、「やや減った」が20.8%にのぼりました。
ひとり親家庭となり経済状況や家庭内の環境が変化し、子どもに体験活動をさせることをやむなく断念するケースがみられます。回答者からは、下記のような声が上げられました(自由記述回答)。
「お子さんに学校の外での活動を体験させることに対して、どの程度の難しさを感じていますか」という質問に対し、19.7%が「非常に難しく、全く体験させていない」、51.0%が「やや難しく、あまり体験させていない」と回答しました。
上記の質問で「非常に難しく、全く体験させていない」「やや難しく、あまり体験させていない」を選択した回答者に対し、体験活動をさせることが難しい理由を尋ねたところ、約9割が「それらの体験をさせるための経済的余裕がないため」と回答しました。さらに、61.1%の回答者が「それらの体験にかける時間的余裕が保護者にないため」を選択しました。
次に、「子どもが直近1年間に一度も体験していない学校の外での活動」について、「習い事(スポーツ等のクラブ・チームへの所属含む)」「旅行」「自然体験」「文化芸術体験」の中からあてはまるものを選択する(複数選択可)形式で質問をした結果、「自然体験」「旅行」が比較的高い割合で選択されました。また、「文化芸術体験」「習い事(同)」を選択した回答者も少なくありません。さらに、2割近くの回答者が選択肢に挙げられた体験活動をすべて選択しており、それらすべての活動を子どもが直近1年間に一度も体験していないことがわかりました。
先述の文部科学省の調査では、子どもの体験後に育まれた意識(自尊感情や外向性等)の内容は体験活動の種類によって異なることが明らかになったことから、多様な体験をすることが子どもの成長において重要であることが示されています。したがって、体験の種類が限られることにより、子どもが豊かな感情や幅広い能力を養う機会が不足することが懸念されます。
自由記述で寄せられた回答者の声から、体験機会において周囲との差異を感じる子どもたちの様子が浮かび上がりました。
「体験」は食事や睡眠などと違い、不足しているからと言って生命の危機にさらされるものではありません。しかし、体験を通して得た他者との関わり方、自分の興味や才能への気づき、問題解決能力などは、複雑化・多様化する社会を生き抜くために欠かせない原動力となります。
本調査では、このような力を培う環境やきっかけを十分に得られない子どもたちの状況が明らかとなりました。また、体験機会が乏しいこと自体に加え、「周りのみんながしていることを自分はできない」という事実が子どもの疎外感や絶望につながってしまう可能性があり、これも体験格差の憂慮すべき側面であると考えます。
子どもたちは、10年後、20年後の社会をつくるかけがえのない存在です。子どもたちが今様々な体験を通して得る力は、未来の社会を支える土台となります。家庭環境により体験機会が制限されることのないよう、収入が一定額以下の家庭に対し習い事費用等を公的に助成するといった仕組みや、困窮家庭が基本的な生活物資等のサポートを受けることで家計を改善し、子どもの体験に必要な支出を賄うようにできる支援など、具体的な対策を講じながら、長期的な視点で子どもたちの体験機会を支えることが必要だと考えます。