「衣食住」という表現にみられるように、食と並ぶ生活の重要な基礎が、住居と衣服です。安全で快適な居住空間や適切な衣服があることは、尊厳ある暮らしを送る上で欠かせません。しかし、グッドごはん利用者への調査より、住まうことと着ることへの様々な苦難を抱え、時には社会生活にまで影響が及ぶほどの困難に陥っているひとり親家庭の状況が明らかとなりました。
2023年8月にグッドごはん利用者へアンケートを行い、住まいの状況について調査しました1。まず、住居形態について質問した結果、回答者の7割近くが公営住宅を含む賃貸の集合住宅に居住していることがわかりました。
次に、現在の住居に不安・不満を感じる点について尋ねたところ、4割を超える回答者が「家賃」「住居の間取り・広さ」を選択しました(複数回答)。
家賃に関し、賃貸住宅に居住している人に現在の家賃を質問した結果、「5万円以上8万円未満」が最も多く、家計に占める家賃の割合については「30%以上40%未満」が最多の割合を占めました。
家賃について、回答者からは自由記述回答にて「もっと家賃の安いところに住みたいが、子どもの学区を考えると引っ越せない」「賃貸の住宅を借りる際シングル家庭という理由で後から申し込みのあった方を優先されたり、理不尽な扱いを受けることも多く、希望の家賃より高くなることがとても多い」といった声が寄せられました。
さらに、住居の間取り・広さに関する困りごとも多く挙げられました(自由記述回答)。
上記のコメントのように、適度な居住スペースを確保することが難しいために、子どもが勉強や食事をするための空間を整えることに困難を抱えている状況が生じています。
住居の狭さの問題に加え、回答者の中には「エアコンのない部屋で(夏場に)扇風機のみで寝ている」「エアコンがない部屋での生活が厳しく、生命の危険を感じています」といった声もあり、住居に十分な空調設備がなく快適な生活を送ることが難しい様子もみられます。
その他にも、住居への不安にまつわる様々な声が寄せられました(自由記述回答)。
適切な住環境で暮らすことは、子どもの健全な成長と発達において非常に重要です。勉強に取り組む空間があることで集中力や創造力を育んだり、適切なプライバシー空間が確保されることで心理的な安心感を得たりすることができ、住環境が子どもの成長に与える影響は小さくないと考えられます。しかし、上述のアンケート結果にみられるように、住居に不安を抱えながら暮らすひとり親家庭は少なくありません。また、住環境を自ら改善するには、大きな時間と労力、そして費用を必要とします。生活に困窮する中でその余裕を持てず、不満や不安を感じていても行動を起こせないという悪循環に追い込まれる状況が推察されます。
ひとり親家庭は経済状況等に応じて家賃補助などの公的支援を利用できるケースもありますが、住んでいる地域の自治体によっては支援制度が設けられていない・十分でない場合もあります。また、本調査では、「公営住宅の抽選に応募しているがなかなか当選しない」といった利用者のコメントも多く寄せられました。ひとり親家庭の住環境に対する社会的な支援策には、依然充足の余地があると考えます。
次に、グッドごはん利用者へ行った衣服における困りごとに関するアンケート調査結果を紹介します。
「過去1年間に必要な衣服を買えなかった経験」について尋ねたところ、回答者の8割近くがその経験があると答えました2。
自由記述回答では、「服や靴が買えず、全員靴に穴が空いているため、雨の日が辛い」といった悲痛な声が寄せられました。
2023年11月にグッドごはん利用者へ行った調査3で、ひとり親家庭になって以降の衣服の使用・調達状況に関して回答を得たところ、自身(子どもの保護者)の古くなった服(破れている・形が崩れている・落ちない汚れがある等)を着続けることが「かなりある」回答者は38.3%、「まあまあある」回答者は46.0%に及びました。
さらに、子どもの服について、「経済的に余裕がないことが理由で、子どもの服が古くなった時やサイズが合わなくなった時に新しく購入することをあきらめた経験がある」(「かなりある」「まあまあある」)と答えた回答者は7割を超える結果となりました。
回答者からは、下記のとおり衣服にまつわる困難の声が寄せられました。
上記のコメントにみられるように、経済的に余裕のない暮らしにおいてかろうじて食費を賄い、ましてや十分な食事をとることさえ難しい状況において、家計の中で衣服に充てる費用の優先順位が低くなる家庭は少なくありません。
そのような生活において、子どもの成長や年齢に合わせて衣服を用意することが難しい実情に苦悩する声が上げられました。
同調査の自由記述回答より、衣服を十分に持てないことで、ひとり親家庭が心理面や人とのコミュニケーションにおいて不自由さを抱えているケースが明らかとなりました。
さらに、子どもの学校生活・行事等において、衣服に関する困難が顕著に表れる場合があります。
上述の調査結果にみられるようなひとり親家庭が抱える衣服の困難は、相対的貧困の様相を如実に表しているものと考えます。物理的に身体を守れるだけの最低限の衣服があれば、生命に関わるような深刻な状態に陥る心配はありません。しかし、周りと比べて見劣りする服を着ていること、場面に応じた服装ができないこと、年齢や身体の成長に合わせて衣服を選べないことにより、暮らしのあらゆる場面で困難や生きづらさに直面する可能性が生まれます。
さらに、そのような困難はその場限りでなく、子どもたちの将来にわたって暗い影を落とすことが懸念されます。なぜなら、「ボロボロの服を着ている」と友達に言われた経験や、着て行く服がなく周りとの交流を控えるといったことにより、自己肯定感や対人関係を育む機会が不足し、子どもたちの心理面や社会生活に長期的な影響を及ぼすリスクが危惧されるためです。
加えて、衣服は自己表現の手段でもあることから、自分が何を着るか・着たいかの選択が限られることはすなわち、子どもたちが自分自身の価値観や好みを知ったり反映したりするプロセスや体験が制限されることにもつながります。
生活に不可欠な物を周りと著しい差異なく持っていること・選択できることは、暮らしの安心、ひいては子どもの健やかな成長につながるはずです。したがって、衣服をはじめとした生活必需品における困難を解消することは、一人ひとりの子どもたちが置かれた環境によらず尊厳ある生活を送るための土台づくりとして、見過ごすことのできない課題であると考えます。