その家庭の暮らしぶりを客観的に理解するための要素の一つが、収入状況です。グッドごはん利用者はどれくらいの収入で暮らしているのか?仕事での収入や、養育費は?本項目では、様々な視点からグッドごはん利用者の収入事情について述べます。
グッドごはん利用者に、「昨年(2023年)の収入額」を尋ねました1。まず、回答した利用者の世帯全体での年収(※手取り 各種社会手当・養育費・同居家族の収入含む)に関し、「200万円未満」が58%に及ぶことがわかりました。
生活状況に関し、回答者からは下記のような声が上げられました(自由記述回答)。
グッドごはん利用者本人の就労のみによる収入(手取り)について回答を得たところ、1円以上200万円未満の世帯が7割近くを占め、その内訳は「1円以上100万円未満」が25.1%、「100万円以上200万円未満」が43.4%でした。
また、就労形態について、回答者の半数以上が非正規雇用で就労している(2023年末時点)ことが明らかになりました。
グッドごはん利用者は非正規かつ時給制で賃金を得ている場合も多く、子育てを一人で担う生活の中、仕事に費やす時間と子どもと過ごす時間とを天秤にかけ、ジレンマを抱える人も少なくありません。また、家族の介護や自身の健康問題など、様々な理由から就労へのハードルが高くなるケースもあります。
2023年1月の調査2で、「労働に費やしている時間」をグッドごはん利用者に聞きました。
その結果、全体の半数が子育てをしながら週31時間以上、10人に1人は週41時間以上を労働に充てていることがわかりました。回答者からは、「休めば給料が減るので無理でも働かないと余裕が無い」「働けど働けど給与は上がらず収入が増えないが、物価は上がるので生活が大変」といった声が聞かれました。
グッドごはん利用者Aさん 40代 週41時間以上勤務
「シフト制の仕事のため早番・遅番があり、子どもたちが寝ている間に先に出勤してしまい子どもたちが起きられず遅刻や欠席をしてしまうことが多々ある。母(子どもたちから見たら祖母)が認知症になり、介護、仕事、子育てでクタクタになり 疲れ果ててしまっている。」
収入・雇用面での安定性が比較的低い非正規就労などで収入を得ている場合、社会情勢の混乱が発生したときに、一層不安定な収入状況に追いやられます。
昨今起きた社会不安の一つが、世界中の人々が直面した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックです。新型コロナウイルス禍(以下、コロナ禍)において、グッドごはん利用者はどのような収入状況に置かれたのでしょうか。
2023年1月~2月に行った調査3で、コロナ禍以前と以後での収入の変化をグッドごはん利用者に尋ねました。その結果、コロナ禍以前の2019年と比較し、コロナ禍以後の2022年に就労収入が「減った」または「無くなった」と回答した人は、全体の6割程に及びました。
回答者からは、下記のような声が寄せられました(自由記述回答)。
社会に大きな混乱を与えた新型コロナウイルス。日本では、2023年5月から感染法上の分類が季節性インフルエンザと同じ「5類」に引き下げされ、社会では徐々に、コロナ禍以前の日常がみられるようになりました。
そのような中、グッドネーバーズ・ジャパンは2024年2月に、「自身や子どもに現在も続くコロナ禍の影響」をグッドごはん利用者に聞きました1。その結果、2024年2月時点においても何らかのコロナ禍の影響を受けている回答者が、全体の6割を超えることがわかりました。そして、そのうちコロナ禍の影響で「収入が不安定になった」「給料が下がった」「失業した」と回答した人の割合は計46.3%にのぼりました。
回答者からは、下記のような声が聞かれました(自由記述回答)。
先述したように、グッドごはん利用者は非正規雇用で就労している人が多く、コロナ禍以前から収入面で不安定要素をはらんでいる傾向がみられました。そのような脆弱性がコロナ禍で露呈し、そして悪化したまま、苦悩を抱え続けるグッドごはん利用者の姿が浮かび上がりました。
社会的に弱い立場にある人々は、コロナ禍のような社会的混乱の渦中で負の影響を受けやすいだけでなく、その影響を長い期間に渡って受け続けるリスクがあります。そして、その影響が大きければ大きいほど、苦しい生活に陥れば陥るほど、自分の力のみでその状況から這い出すことは容易ではありません。
ひとり親家庭の収入を考える上で、「養育費」は重要なポイントです。養育費とは、子どもが経済的・社会的に自立するまでの間、子どもの監護や教育のために要する費用のことを指し、衣食住に必要な経費、教育費、医療費などが該当します。そして、離婚などにより親権者でなくなった親であっても、子どもの親であることに変わりはないため、養育費の支払義務を負います。
当団体は2024年8月にグッドごはん利用者へ対し、養育費の受け取り状況などに関するアンケート調査を行いました4。子どもの片方の親から養育費を受け取っているかについて質問したところ、「一度も受け取っていない」と回答した人が最も多く、その割合は50.3%に及びました。また、「きまった金額を毎月不足なく受け取っている」と答えた人はわずか2割程度にとどまりました。
養育費を継続的に受け取っていない回答者(養育費受け取り状況の質問に対する回答で「きまった金額を毎月不足なく受け取っている」「その他」を選択しなかった回答者、以下同)に対し、受け取っていない理由を質問した結果、「相手が支払いを拒否しているため」「離別当初から相手が経済的に不安定なため」「相手から身体的/精神的暴力やハラスメントを受けていたことから、相手と関わりたくないため」「相手が行方不明になった・一方的に連絡を途絶えさせたため」と回答した人が比較的多い割合を占めました。
養育費の受け取りに関し、自由記述回答では、相手に支払い能力がないために受け取りがかなわない事情や、子どもとの面会交流が養育費支払いの対価とはならないにもかかわらず面会を交換条件にされる状況に苦悩するケースがみられました。
養育費を継続的に受け取っていない回答者のうち、相手と養育費の取り決めをしていない、また、養育費を支払うよう相手に直接働きかけたことがない人はいずれも約半数でした。
養育費の取り決めをしなかった理由、および相手に直接支払いを働きかけたことがない理由については、ともに「相手から身体的/精神的暴力やハラスメントを受けていたことから、相手と関わりたくない(なかった)ため」が最多の割合を占めました。
自身に暴力やハラスメントを加えてきた相手とコミュニケーションをとることにおいて、多大な苦痛が伴うことは想像に難くありません。相手から身体的/精神的暴力やハラスメントを受けていたため相手と関わりたくないことを理由として、養育費の取り決めや相手への働きかけを行ったことがないと答えた人からは、下記のような声が上げられました。
一方、養育費について「きまった金額を毎月不足なく受け取っている」と答えた人においても、受け取りにおける相手とのコミュニケーションに関し精神的負担を感じている様子がみられました(自由記述回答)。
「きまった金額を毎月不足なく受け取っている」と回答した人において、受け取り額の少なさを問題視する状況もうかがえました。1か月あたりの受け取り金額(子どもが複数人いる場合は合計額)を同回答者に尋ねた結果、月額1~5万円台と回答した人が約6割でした。回答者が養育する20歳未満の子どもの人数別に確認すると、子ども1人あたりの受け取り金額が月額1万円にも満たない家庭もみられます。
文部科学省が実施した子どもの学習費に関する調査結果5によると、たとえば公立小学校に通う子どもの学習費のみでも1人あたり年間約35万円がかかり、月額換算で3万円近くが必要と算出できます。学習費に加え、食費、医療費、習い事など、子どもを養い育てるためにはあらゆる費用が必要となりますが、今回の調査で「きまった金額を毎月不足なく受け取っている」と回答した人に対し「現在受け取っている養育費の金額は、子どもの教育や監護に必要な費用として適切だと思うか」を質問したところ、8割以上が「少なすぎる」「やや少ない」と答えました。
養育費の金額を取り決める場においては、裁判所が公開している「養育費算定表」が金額の基準として広く活用されています。しかし、本調査で「きまった金額を毎月不足なく受け取っている」と回答した人の自由記述回答では、同算定表での金額が少なく思うとの意見が見受けられ、「子供を育てていくための費用として現実的な金額でない」などのコメントがみられました。なお、養育費算定表は2019年に16年ぶりに改定され、多くの場合は改定前よりも1~2万円ほどの増額が見込まれますが、改定以前の基準で受け取っている人は基準額の改定自体を理由として相手に養育費の増額を請求することは基本的に難しいとされます。
以上のように、きまった金額の養育費を毎月不足なく受け取っている場合でも、受け取り額の少なさに困難をおぼえる様子が明らかになりました。
養育費を適切に支払わない相手に対し、当然ながら支払いを請求する権利があります。家庭裁判所等における法的手続きを介して支払いを求める方法がありますが、本調査において養育費を継続的に受け取っていないと回答した人のうち、法的手続きを行ったことがない人の割合は77.7%でした。
法的手続きを行ったことがない理由については、5割近くが「弁護士・司法書士等の費用を支払うことが難しいため」「手続きを行うための精神的負担が大きいため」「手続きを行うための時間的負担が大きいため」を選択しました(複数回答)。
弁護士・司法書士等の費用に関しては、2024年4月に導入された日本司法支援センター(法テラス)の「ひとり親世帯に対する償還免除制度」により、一定の収入要件等を満たすひとり親は、養育費請求等に必要な弁護士・司法書士費用等の法テラスへの立替金返済免除申請が可能となるなどの制度もありますが、本調査で養育費を継続的に受け取っていないと回答した人の中で、当該の制度を「知っていた」と答えた人は1割未満でした。
仮に費用面の不安要素が軽減された場合であっても、法的手続きにかかる時間的・精神的負担は残存します。本調査で、養育費請求にかかる法的手続きを行ったことがあると回答した人のうち8割近くが、手続き実施にあたり他者からのサポートを受けたことがわかり、法的な手続きを自力で行うことが困難な状況が推察されます。
なお、2024年5月に公布された民法等の一部を改正する法律において「法定養育費制度」が盛り込まれ、ケースによって法的手続きの簡素化が期待されますが、本調査で養育費を継続的に受け取っていない人のうち、この制度の導入について「知っていた」と回答した人は5%でした。
制度の整備により法的手続きの簡素化への効果が期待されるものの、法的な手続きを行うこと自体に対する精神的負荷は少なくないと考えられます。回答者からは、自由記述回答で下記のような声が寄せられました。
ひとり親世帯の子どもの養育に関し、共同親権を可能とする民法などの改正案が2024年5月に日本の国会で可決されましたが、共同親権が施行された後も、別居親による養育費の支払い義務は変わらず生じます。養育費を受け取ることは子どもの権利であり、子どもは適切な養育費のもとで健やかに育ち、生活することができます。諸外国では、行政が養育費の立替えや徴収を行う仕組みなどがみられ、親の状況によらず子どもが養育費を得られるような社会的制度が構築されている場合もあります。
子どもが養育費を受け取れずに貧困に陥ったり、教育や進学を諦めたりする事態が起きてしまえば、将来の可能性や選択肢が狭まり、貧困から抜け出せないまま大人になってしまうリスクが生じます。そのようにして次世代にも貧困が連鎖すれば、未来の社会に影響が及んでしまうため、養育費の未払いを一因とした子どもの貧困は各家庭の問題にとどまらず、社会全体で取り組むべき課題と言えます。
本調査で、子どもの片方の親に対する精神的恐怖などから相手へ直接支払いを働きかけることができないケースや、費用面・精神面の負担から支払い請求のための法的手続きを断念せざるを得ない場合があることが明らかとなりましたが、そのような状況下でも養育費の受け取りにかかる子どもの権利が厳然に守られるよう、社会的枠組みのさらなる強化が求められます。たとえば、離婚時に専門的な第三者機関が介入し養育費について取り決める、相手の給与から養育費を天引きするなど、具体的な制度や対策に関し検討の余地があるのではないでしょうか。そして、いかなる対策においても、国の未来の財産である子どもが健やかに生きる権利を最重要に位置づけ、それを守り抜くことが、社会全体の発展や安定につながると考えます。
最低限度の生活を送ることが難しいほど困窮している世帯にとって、国が提供する生活保護制度はセーフティーネットの一つになり得ます。一方、グッドごはん利用世帯の中には、生活保護の受給を検討しながらも、様々な事情から利用に至らなかったケースがみられます。
生活保護の利用に関し、グッドごはん利用者から寄せられた声:
「生活保護はやめてくれと身内から懇願されています。」
「一度生活保護を受けたことがあるが友達に否定されたり友達がいなくなったり、病院に受診しに行くと酷い扱いをされ鬱が悪化した。」
「生活保護を受けたほうが普通に生活出来るのではないかと一度役所に相談へ行ったこともありますが、担当の方の本音として、生活保護を受けることで暮らしが制限を受けるということに加え、何より子供たちが一番苦労するかもしれないと聞きました。生活保護を受けていることがどこからか周りに知られて、いじめの対象になったりすることもあると。そんな事実を聞かされると何もかも怖くて、本当に切羽詰まって助けて欲しい時はどうしたらいいのかわかりません。」
「私の両親が生活保護制度に反対のためどうしたらよいのか…」
困難な生活に直面するリスクを社会のあらゆる人が持っています。誰もが必要な支援にためらわず手を伸ばせるような環境を、社会でつくっていくことが求められます。
※グッドごはんでは、生活保護を受給していない家庭を対象に支援をしています。なお、これは生活保護制度および生活保護を受給されている方々を否定・批判するものではありません。各家庭が尊厳ある生活を送るために、公的制度も当団体のような民間支援も、どちらも必要不可欠なものと考えています。